本記事は、所得向上委員会の『2021年ブル年開幕!田中泰輔氏1-3月投資戦略!想定すべき上昇とリスク【所得向上委員会】』を基に作成しています。
田中泰輔さん(@tanaka_taisuke)について
”グローバルマクロ・アドバイザー。1983年慶應義塾大学卒業後、日本長期信用銀行、モルガン・スタンレー証券、ドイツ証券ほか、日米欧のグローバル金融機関9社でトレーダー、ストラテジストなどを歴任。国内外の主要アナリストランキングで20年以上トップ級に選出、高い評価を得てきた。個人、プロを問わず投資家のニーズに一貫したロジックで応える分析、戦略に定評がある。田中泰輔リサーチ代表。”
楽天証券より
最新著書『逃げて勝つ 投資の鉄則 大負けせずに資産を築く10年戦略 (日本経済新聞出版)』
2021年の投資環境
2021年は、金融緩和という大きな背景があるので、マクロ環境としての相場の方向性は非常に良い。
① ワクチン完成により経済の正常化に向かいだす
② 経済は正常化していくが、水面下では需要不足があるため、政策がサポートする
つまり、政策のサポートと金融緩和がある環境下で、ワクチンにより経済はいずれ正常化していくという道筋が見えている。
これは、株式市場にとっては上を見る展開であり、基本スタンスは『買い』である。
2021年は『好景気のドル安』
『円高』と聞くと、リスクオフで円高という刷り込みがある。
経済環境が悪くなると、日本やスイスなどの経常黒字国の通貨は、リスクを取れない場面で上がってしまうことがある。
しかし、この場面での円高は少し違う。
アメリカの景気が良くなり、世界景気が良くなる時のドル安の煽りを受けての円高である。
どういうことかというと、
アメリカ景気も世界景気も悪くなるからドル安が起きる。
その次に、1つはドル安のおかげ、もう1つは景気悪化による金融緩和のおかげで株価の上昇が始まる。
その後、経済が回復し始める場面で、足元の需要不足で金融緩和が継続している。
為替を動かす1番大きな力は金融の力であるため、金融緩和によりドル安となる。
アメリカ経済がよくなり、株も高くなる中で、じゃぶじゃぶにお金が供給されている。
このじゃぶじゃぶのドル資金が株式市場に流れる。
しかし、ドルは国際基軸通貨のため、アメリカ市場にとどまらず、国際市場に流れ出ていく。
そして、ドルが流出することでドル安となる。
流出したドルは、高利回りを求めて、新興国や資源に流れ込む。
〇新興国は元々資金不足で、成長したいのにできないという状況。
そこにドルが流れ込むことで、急激に成長が始まる。
そして、ドル資金が入ってくることで、新興国通貨は上昇する。
新興国は資金不足でドルで借金をしている。
自国の通貨が上昇し、ドルが下落するということは、返済すべきドルの負担が減るということ。
つまり、強烈な金融緩和効果が出る。
〇資源はドルで取引されている。
そのドルが下がるということは、ドル以外の国から見れば、ドル安分だけ資源価格が安いということになる。
世界の需要が同じで、景気が回復していき、資源価格が上がりやすい場面でドル安になると、ドル安分だけ資源の価格は上昇する。
そうでないと需要のバランスが合わないから。
資源も上がるし、新興国も上がるということは、新興国の中で資源を輸出している国はもっと上がる。
好景気のドル安というのは、ドル安が景気も株価も支え、そして新興国・資源の復調を促す。
順当にいけば、2021年にこういうことが重なる。
円高の影響
2021年末のドル円は95円を予想。
ただし、急激な変動ではなく、じりじりと円高に傾くことを想定している。
リーマンショックの時は、ドル円が120円から75円まで大きく動いた。
一方、今回は103円から95円の予想なので控えめな円高を想定。
なぜ、リーマンの時に比べて控えめな予想にしているかというと、為替の需要供給を見ると、それほど円高的ではないから。
また、円高に過敏な人がそれほど相場に参加していないから。
なので、ドル安になった時に、じわじわと円高側に圧力がかかるイメージ。
日本株は円高になると下がるため、日本人は円高に対する恐怖心がある。
しかし、今回想定しているドル安円高は控えめで、一気に傾くものではない。
そのため、この程度であれば、日本企業がそれほどダメージを被らずに対応できると思われる。
日本株は円高分だけものすごく安くなるという展開よりかは、米国株や新興国株が強い中で、日本株もしっかりしていると予想。
ただし、計算上は、円高分だけ日本株がアンダーパフォームする。
米国株に比べて伸びが低いということで、日本株は圧迫されるという程度。
その圧迫により株価が下げる場面があったとしても、日銀の買い支えがあるので大丈夫。
つまり、世界全体的にリスクオンだが、日本株は円高により堅調な中でアンダーパフォームという状況が想定される。
2021年の相場のリズム
2020年はグロース株で突っ走るという展開だったが、10月以降、少しもたついた。
もたついたが買い気があるから、持ち直そうとしているところでワクチンの良いニュースが出た。
ワクチンが普及するなら、経済が正常化するという展望が具体的になった。
これからの相場は、金融緩和に加えて、景気回復のセットになるため、大枠としては良い。
問題になるのは、グロースで突っ走ったがもたもたしたこと。
経済が正常化するときに何が起きるかというと、置いてけぼりとなっていた景気株・バリュー株の見直しである。
バリューが上がってくる場面では、先んじて上がったグロース株を一部売って、バリュー株を買うという動きが出る(=ローテーション)。
このローテーションが、1月ごろまで続くと考えられるが、ずっとは続かない。
ローテーションが起きた後には、バリュー株や景気株がグロース株を上回って上がり続けることはないということに気づく。
そのため、一定期間が過ぎれば、基本的にはグロース株有利という展開になる。
しかし、経済が正常化していく中で、高配当・素材・金融といった、景気・バリュー株も上昇してくる。
そのため、どれを買っても良いという流れの中にある。
1月はじめには、アメリカ上院の残り2議席がどうなるのか、ということもあるのでスタートダッシュはできない。
1月下旬には、新政権が発足し、政策が発表される。
そのころには、ワクチンの接種も進んでいる。
そして、北半球の冬が過ぎ、気温が上昇して来れば、コロナ感染者数もピークアウトすることが予想される。
そのため、春にかけて、おそらく2021年は良い相場環境になるということが確認できる流れになることがイメージできる。
12月にまいた種が、1月・2月に芽を吹き、3月にかけてパット花開くのを期待するというのが1つのストーリー。