2020年版『国内EC事業のテイクレートが高いのは?』【楽天市場、Yahoo!ショッピング、BASE】

企業分析・業界分析

こんにちは。

決算シーズンも終盤となりましたが、eコマース(EC)事業はどこも絶好調でしたね。

そこで、今回は国内EC事業の中でも、マーケットプレイス型ビジネスに焦点を当ててみました。

BASEの2020年第2四半期の決算短信によると、ECの市場規模はまだまだ拡大します。

経済産業省発表の「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備に関する報告書」によると、国内BtoC-EC市場規模は、2022年には26.0兆円まで拡大すると予想されております。

BASE 2020年度第2四半期 決算短信より

現在、楽天市場で年間4兆円、Z Holdings全体で年間3兆円ぐらいの規模です(CtoC含む)。
Amazonもおそらく年間3~5兆円ぐらいの規模だと思われます。

ということは、2年後には、国内EC(BtoC)は2倍の規模になるだろうという予測です。

今回比較したのは、楽天市場/Yahoo!ショッピング/BASEの3つのテイクレートです。

比較結果が以下となります。

詳細については、後述しています。

国内ECのビッグ2である楽天市場とYahoo!ショッピングは、収益化構造が異なります。

楽天が出店店舗に売上ロイヤリティと月額費用を要求するのに対し、Yahoo!ショッピングは無料で、広告収入のみを収益源としています。

BASEの売上ロイヤリティは、私が調べた限り、公表されていませんでしたが、この記事の終盤でそのパーセンテージの予想をしています。

そして、テイクレートは、BASE>楽天市場>Yahoo!ショッピングの順になりました。

テイクレートは売上に直結するため、低いほど、これから売上を伸ばす余地があるということです。

ここから先では、「テイクレートとは」や「テイクレートの算出法」について紹介します。

ECビジネスの分析のしかた

ECビジネスを分析するうえでキーワードとなるのが、「GMV」「テイクレート」「ネット売上」の3つです。

これらには、次の関係があります。

「ネット売上」=「GMV」×「テイクレート」

GMV(Gross Marchandize Volume)とは、取扱高のことです。他にも、流通総額やGMS(Gross Marchandize Sales)と呼ばれたりします。

テイクレート(Take Rate)とは、取扱高のうち、EC事業者の売上(=ネット売上)になる割合(%)のことです。

マーケットプレイス型のECでは、ネット売上を構成するのは、出店手数料(月額利用料)・売上ロイヤリティ・広告収入がメインとなります。他には、決済手数料等があります。

次から紹介する、楽天市場/Yahoo!ショッピング/BASEは、それぞれネット売上の構成が異なります。

決算資料等から、それらを実際に算出しましたので、興味があれば決算分析の参考に読んでみてください。

冒頭で紹介した「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」は、
実際の決算資料を用いて、分析方法をわかりやすく解説してくれています。

Zeppyのいとちゃん、井村さんもおすすめしていた本です。(その動画はこちら

決算資料の読み方がわからないという方に、おすすめです!
公表されていない数字の類推の仕方もわかるので、とても参考になります。

ECビジネス以外にも、FinTechやFacebookなどの広告ビジネス、Netflixなどのサブスクリプションビジネス等についても解説されているので、今が旬なビジネスモデルを基礎から学べます。

Kindle版はこちらから。楽天市場はこちらから。

著者のシバタナオキさんのnoteもおすすめですし、Youtubeチャンネルもおすすめです。

楽天市場

参考資料
  • Rakuten 2020年度第2四半期 スライド資料
  • Rakuten 四半期報告書・第24期(2020年度)第2四半期
  • Rakuten 四半期報告書・第24期(2020年度)第1四半期

楽天市場の収益化構造を整理します。

楽天市場は次の2タイプに分けることができます。

・マーケットプレイス型(楽天市場・楽天トラベル・楽天GORAなど)
・直販型(楽天24、楽天ブックス、楽天ファッションなど)

そして、今回着目するのは、マーケットプレイス型です。

楽天市場に出店するには、以下の費用等が掛かります。

おすすめのスタンダードプランの場合、月額費用が5万円で、売上ロイヤリティは2~4.5%です。

Rakutenより

楽天市場のGMV

Rakutenの決算説明会スライドを見てみると、

楽天市場のGMVは1,030,900百万円であることがわかります。

Rakuten 2020年度第2四半期 スライド資料より

しかし、ここには直販型のビジネスも含まれているので、その分を除く必要があります。

どのように計算するのかというと、概算にはなりますが、直販型の売上収益を引けばよいのです。

楽天市場のネット売上

Rakutenの四半期報告書を見てみると、

Rakuten 四半期報告書・第24期(2020年度)第2四半期 より

楽天市場(マーケットプレイス型)のネット売上は、135,595百万円です。

楽天市場(直販型)のネット売上は、「爽快ドラッグ…」+「Rakuten Rewards」+「楽天ブックス」の3つを足し合わせた、94,791百万円です。

しかし、これは2020年1月1日~2020年6月30日までの累計であることに注意です。

そこで、第1四半期の四半期報告書を確認し、第1四半期の売上を引いた結果が以下です。

マーケットプレイスのネット売上は、69,988百万円

直販型のネット売上は、46,421百万円。

そして、マーケットプレイスのGMVは、楽天市場全体のGMVから直販型のネット売上を引いて、984,479百万円となりました。

楽天市場のテイクレートは?

これまでの計算結果をまとめると、

楽天市場(マーケットプレイス型)のGMVは、984,479百万円。

楽天市場(マーケットプレイス型)のネット売上は、69,988百万円。

よって、テイクレートは、7.1%となります。
(テイクレート = 69,988 ÷ 984,479 × 100 = 7.1 )

売上ロイヤリティの平均が3%程度と仮定すると、広告売上が3%程度、月額費用や決済手数料で1%程度になるのではないかと思います。

今回の計算では、楽天トラベルを区別することができませんでした。
しかし、この四半期は、Covidの影響で旅行の売上は0に近いはずです。

したがって、実際の数値にかなり近い値を算出できたのではないでしょうか。

Yahoo! ショッピング

参考資料
  • Z Holdings 2020年度第1四半期決算説明会資料
  • Z Holdings 2020年度第1四半期報告書
  • ZOZO 2021年3月期第1四半期 決算説明会資料
  • アスクル 2020年5月期本決算 決算説明会資料

Yahoo!ショッピングの収益化構造を整理します。

Yahoo!ショッピングは、出店手数料(初期費用・月額費用)が0円で、しかも、売上ロイヤリティも0%です。

どのようにマネタイズしているかというと、広告です。

Z Holdings コマース事業

はじめから、Yahoo!ショッピングについて調べたいのですが、Z Holdingsには、Yahoo!ショッピングだけでなく、ZOZOTOWNやASKUL、PayPayモール等が含まれるため、まずは全体を確認します。

Z Holdings全体のGMV
Z Holdings 2020年度第1四半期 決算説明会資料より

決算説明会資料より、Z Holdingsのコマース事業全体のGMVは379,300百万円です。

Z Holdings全体の広告売上(ネット売上)

Z Holdingsの2020年第1四半期の有価証券報告書に、売上収益を細かく分解したものが載っていました。

Z Holdingsのコマース事業全体の広告売上は、12,387百万円です。

Z Holdings 2020年度第1四半期報告書より

以上から、Z Holdingsのコマース事業全体のGMV=379,300百万円、広告売上=12,387百万円ということがわかりました。

この中には、他にも、ZOZOTOWNやPayPayモール、アスクルも含まれているため、それらのGMV、広告売上を除かなければなりません。

ただし、PayPayモールについては詳細が公表されていないため、除くことができませんでした。

ZOZOTOWNのGMVと広告売上

ZOZOの2021年3月期の決算説明会資料を見てみると、

GMVは95,330百万円で、売上高は33,674百万円です。

ZOZOTOWNは、広告売上以外にも、出店店舗から手数料を得ています。
そのため、売上高のうち、広告売上のみを引っ張ってくる必要があります。

(余談ですが、ここからZOZOTOWN単体のテイクレートを算出すると、驚異の35%!!)

ZOZO 2021年3月期 決算説明会資料より

同決算説明会資料に、売上高の詳細が掲載されていました。

広告売上は、776百万円です。

ZOZO 2021年3月期 決算説明会資料より

以上から、ZOZOTOWNのGMV=95,330百万円、広告売上=776百万円ということがわかりました。

アスクルのGMV

Z Holdingsの有価証券報告書によると、GMVには、アスクルのBtoB事業のインターネット経由売上収益が含まれているようです。

Z Holdings 2020年度第1四半期報告書より

アスクルの2020年5月期本決算の決算説明会資料を見てみると、

eコマース事業の売上高は、98,800百万円となります。

決算期の違いから、ASKULのみ3月~5月の数字となりますが、大して変わらないのでOKです。

アスクル 2020年5月期本決算 決算説明会資料より

Yahoo!ショッピング+PayPayモールのテイクレートは?

必要なデータが揃ったので、テイクレートを計算します。

GMV(百万円)=379,300(Z全体)-95,330(ZOZOTOWN)ー98,800(ASKUL)=185,170

広告売上(百万円)=12,387(Z全体)-776(ZOZOTOWN)=11,611

よって、Yahoo!ショッピング+PayPayモールのテイクレートは、6.3%であることがわかりました。
(テイクレート = 11,611(広告売上) ÷ 185,170(GMV) × 100 = 6.3 )

BASE

参考資料
  • BASE 2020年12月期 第2四半期決算説明会資料

まずは、BASE事業の収益化構造を整理します。

BASEは、出店手数料および月額費用は0円です。その代わり、商品が売れた際に、ロイヤリティ等をもらうことで利益を得ています(機能追加による課金収入もあります)。

BASEのテイクレートは決算説明会資料に掲載されていました。

GMV=27,582百万円、テイクレート=8.5%、売上高=2,342百万円

BASEの売上ロイヤリティが不明でしたが、テイクレートが8.5%なので、決済手数料等を考慮し、5~6%ぐらいと予想します。

BASE 2020年12月期第2四半期 決算説明会資料より