本記事は、2021/1/29にUPされたトウシル【楽天証券】チャンネルの『田中泰輔の「マネーは語る」:【緊急解説】米株急落 公的リスク警報や招く相場リスク』のメモです。
2021/1/27に米株が急落したことについての緊急解説です。
【緊急解説】米株急落 公的リスク警報が招く相場リスク
今回の解説内容
1.米株急落 その時何が起こった?
2.マクロの上昇気流、不意を突くエアポケット(調整)
これまでの田中さんの考え。
・アメリカで新政権が誕生する
・冬場のコロナがピークアウトし、ワクチン普及とともに経済の正常化機運も出てくる
だから、2021年はマクロの上昇気流。途中、調整があるかもという話をしていた。
田中さんの行動学的な相場変動のリズムの解析からは、以下の想定をしていた。
新政権誕生でしばらく上昇気流。
2月に入って新政権の高揚感が薄れたころに小さな調整。
3月、4月が順調に上がった場合は、早い相場自らがつまずく調整。
4-6月、相場が加速した場合には、そのこと自体が先々の政策の出口や、長期金利の上昇などのマイナス要因を警戒することによる調整。
だから、今回の急落は不意を突かれた。
3.今後の相場を考える
IMF世界経済見通し
2021/1/27にIMFの世界経済見通しの改訂が発表された。
基本的には、4月と10月に大きな改訂があり、その間の1月と7月はマイナーチェンジがなされる。
しかし今回の改訂で、IMFはワクチンの普及によってコロナの克服が進むことで、2021年の世界経済は10月の想定よりも成長が少し進むことが期待されるとし、世界全体の2021年のGDP成長を5.5%(10月予想:5.2%)に上方修正した。
アメリカについては、2020年のGDP成長率予想を‐3.4%(10月予想:‐4.2%)、2021年の予想を5.1%(10月予想:3.1%)に上方修正した。
日本についても、少し上方修正された。
ユーロ圏については、2020年の予想が-7.2%(10月予想:-8.3%)と上方修正された一方で、2021年については4.2%(10月予想:5.2%)と下方修正された。
今後の展望の中でギクシャクするかもしれないと思った点は2点。
・回復軌道が早くなると政策の出口論が前倒しで出やすくなる。
でもその手前で株式等が上がり過ぎていると神経質になる部分がある。
・アメリカの成長見通しが強くなった一方で、ユーロ圏がもたもたしている。
このことは、アメリカが良くなる中でドル高になるのか、それとも田中さんが予想している好景気のドル安になるのかという見方に影響する。
ユーロ圏がしっかりしていれば、ユーロがドル安の受け皿になることで、リスクオンでドル安だと確認しやすくなる。
ただ、ユーロがもたついているとその力が発揮されにくい。
ドル安という流れが強く出ない時には、新興国・資源がぱっとしないということもあり得る。
IMFの予想は時間軸の中で捉える必要があるが、以上のことを留意しないといけない。
景気2番底を越えて
経済全般の展開としては、米景気が『軟化→下降→回復→加速→成熟→…』と向かっていく中で、今回は普通のサイクルではない展開になっている。
今回は、経済がしっかりしている段階で、突然コロナで活動停止させられた。
そして、活動再開とともに経済が反発した。
2020年景気反発はV字回復ではない。
活動再開ののちに、コロナ以前の水準に届かない、この需要不足が今後の問題。
ワクチンが普及すれば、この需要不足の時期を切り抜けられ、回復軌道に乗れるというイメージ。
需要不足をどう乗り切るかが焦点なので、FRBも気を抜かずに、手厚くサポートを続けるということが想定された。
政策当局の心構え
2021/1/27にFOMCの結果が公表され、引き続き金融緩和を続けるということを強調した。
パウエル議長は、出口論については時期尚早とコメント。
IMFの予想では、2021年終盤にはGDP成長率のマイナスが解消されるので、早めの政策出口論が出てくるリスクはある。
一方で、政策当局が今対処しないといけないのは、向こう3-6か月の需要不足をどう乗り切るか。
政策を打ったにもかかわらず、回復できなかった場合には、さらに追加の政策が必要になる。
だけど、マーケットでは政策が効くのかという疑問が出てきてしまう。
それだけに、そういう疑問を持たせないような政策対応をきっちりしないといけないという姿勢がパウエル議長の記者会見に表れていた。
米主要株式指数
FOMCの結果はマーケットには味方。
ハイテク株の決算は良さげ。
⇒過去3か月のローテーションに対する見直しが出てくるかなという最中だった。半導体株からGAFAMへの資金流入が垣間見られた。
IMF金融安定報告で以下について言及された。
・金融市場に慢心感がある
・急な調整リスクを警戒すべき
マクロ環境では相場には追い風が吹いているという状況ではあったが、空前の金融緩和でいろんなところでミニバブルの様相が出ていた。
ビットコインやテスラなど。
最近では、個人投資家とプロの投資家との対決(Gamestopなど)があり、過熱感が出ていた。
この状況で、IMF金融安定報告が出たことで、こつんと頭をたたく展開になった。
・2020年9月との相違
9月の時は、NASDAQの上昇ペースが速く、かなり限られた銘柄だけが上がっていったため、過熱感があるということで田中さんは警報を出した。
この時には、大きな意味での金融相場は続くが、経済実態が悪いけど期待で突っ走る『第1波』がいったん調整され、数週間の調整を経て、また上がってくる。
ワクチンができれば、経済正常化に伴う金融相場『第2波』に向かっていくという見通しだった。
今回の展開は、『新政権の発足→ワクチンの普及→冬コロナの終息』という流れの中で、まだ上昇気流の途上にあるという認識だった。小さなエアポケットはあっても、大きくは上昇気流が効いているという認識だった。
全体でみれば、NYダウ、S&P500、NASDAQ指数の調整は小さい。
米株式主要テーマ別ETF
全体でみた場合の調整は小さいが、主要テーマ別ETFを見ると、パフォーマンスの高かったクリーンエネルギーETF(ICLN)や半導体(SMH)は、含み益が膨らんでいた分、下落率が高かった。
ハイテク・グロース株の見直しが起ころうかという中で、頭をこつんと叩かれたので調整試合がいったん強まるという形になっている。
半導体は窓を開けて落ちている。
ここ1-2週間で買った人が含み損を抱えて投げ売りするということもある。
一方で、半導体不足というマクロでは追い風も吹いているので、今後の動向を注意深く見守る必要がある。
2021年の好条件相場の行方
昨年10月時点の田中さんの考え
FRBは2023年まで利上げしないと発表しているので、金融相場の下地はかなり長く続く。
ただし、量的緩和の解除は、それよりも早くなるので、2022年は神経質になる。
今回のIMF見通しとワクチンの流れから、田中さんが気を付けていること。
もともと2022年にかけて神経質になり、2023年には利上げの話が出てきて要注意と考えていたが、それがかなり前倒しになるかもしれないということ。
今年はコロナ下で好条件がそろっているので、4-6月あたりの過熱を気にした調整に注意。
2022年にかけては、新政権が増税するのではないか、規制を強化するのではないかという話もある。
あるいは、米中摩擦も絶えずくすぶっている。
これを懸念し始めるリスクがあるのではないか?
一方で、2022年の秋には中間選挙もある。
現状、『トリプルブルー(ブルーウェーブ)』となっているが、上院で1議席落とすだけでそれが崩れる。
そのため、選挙前には支持率が低下するような政策は抑えることが考えられる。
マクロの追い風は依然として続いているが、全体のリスク感は前倒しで来ている。
この中で、相場が事前に過熱すればするほど、今後も公的な機関(中央銀行やIMFなど)が相場の過熱に対して何らかの牽制を入れてくることは折々にあると思われる。
そういうことがテクニカルな調整というものを誘発することに注意しないといけない。
今後1週間は、今回の下落がどのように終結するのかを観察しないといけない。
つまり、
①相場が底堅くもう一度持ち直そうとするのか、持ち直す中で上で含み損を抱えたポジションの処理がどの程度出てくるのかを注視
②下げ足が速まって、昨年9月のように上昇気流の中でも数週間の調整に入ってしまうリスクに注意