2021/2/25にSECに提出されたコインベースのS-1をチェックしていきます。
コインベースについて
コインベースは、「誰でも、どこでも、簡単に安全にビットコインを取引できるべきだ」というアイデアを基に、2012年に創業しました。コインベースはシンプルで直感的なユーザーエクスペリエンスを通じて、業界の複雑さを軽減することで、ビットコインなどの仮想通貨に安心してアクセスできるプラットフォームを作り上げました。
コインベースはクリプトエコノミーのための end-to-end 金融インフラとテクノロジーを提供するリーディングカンパニーです。コインベースを通じて仮想通貨取引を始めた人が世界中にいます。
現在、4,300万人の個人ユーザー、7,000の機関投資家、11.5万のエコシステムパートナーがコインベースのプラットフォームを利用しています。
暗号資産全体の時価総額は、2012年12月31日時点の5億ドル未満から、2020年12月31日時点では7,820億ドルにまで増加し、年平均成長率は150%オーバーです。
同期間にコインベースの個人ユーザー数は、1.3万人から4,300万人に増加しました。
機関投資家は、2017年12月31日時点の1,000から2020年12月31日時点には7,000に増加しました。
リスク因子(一部抜粋)
- 仮想通貨はボラティリティが高いため、それにより会社の業績もかなり変動すること
- 売上高が暗号資産の価格とプラットフォーム上での取引量に大きく依存していること
- 売上高の大半をビットコインとイーサリウムの取引に依存していること
- 予測困難な仮想通貨の将来
- コインベースのプラットフォームに対するサイバー攻撃やセキュリティ侵害
- 規制や法律の変更によりそれを遵守できなくなること
- この業界の激しい競争に負けることや業界の急速な変化に対応できないこと
- 増加する分散型の自己管理プラットフォームとの競争に負けること
- フィアット通貨(不換通貨)や暗号資産の保護・管理に失敗すること
- コインベースで管理されている暗号資産へのアクセスに必要なプライベートキーの紛失または破壊により、キーが復元できないこと
- ダイレクトリスティングでIPOされるため、既存株主のロックアップがないこと
財務状況と業績に対する経営陣の議論および分析
ビジネスモデル
コインベースはクリプトエコノミーの発展の初期段階にいると考えています。コインベースは急速に成長しましたが、その成長は直線的ではありませんでした。むしろ、仮想通貨の価格サイクルに合わせて、波に乗るように成長してきました。このサイクルは2~4年続くことがわかっており、サイクルが来るたびに仮想通貨の時価総額を大きく上昇させます。サイクルが終わった時、その時価総額(トラフ値)が前回の波のピーク値を上回ることが確認できています。

今のクリプトエコノミーの発展段階では、コインベースは成長を優先することを選びます。グローバルな規模がコインベースのミッションとビジネスモデルの可能性にとっては重要です。そのため、成長投資に継続していきます。コインベースの財務パフォーマンスはかなり変動しやすいですが、費用は純売上高にはほとんど左右されません。コインベースはこれまでに、ビットコイン等の価格が上昇している時は利益を出してきましたが、価格が下落している時は損失を出してきました。将来の見通しとしては、コインベースのビジネスとクリプトエコノミーの成長に利益を再投資していきます。
コインベースは設立~2020年末までに34億ドルの売上高を生み出してきましたが、そのほとんどが取引手数料によるものです。2020年の純売上高の96%が手数料収入でした。コインベースの業績は四半期ごとでぶれやすいので、KPIを含めたビジネスの評価は長期でならして行った方が正確な情報が得られると考えています。
2018年後半からは一連のサブスク製品とサービスの立ち上げにも注力しています。これらの製品とサービスは変動の激しい手数料収入への依存を減らしてくれます。プロダクトとサービスのビジネスは、コインベースのプラットフォーム上の資産のパーセンテージに基づいて売上が生み出されます。そのため、プラットフォーム上の資産の増加がサブスク&サービス売上を増加させます。将来的には、固定利用料もしくはプロダクトとサービスの使用量に基づくエコシステムパートナーからの売上高も増加すると考えています。

コインベースでは、15種を超えるブロックチェーン・プロトコールを直接インテグレートしており、90種を超える仮想通貨のトレーディングと保管をサポートしています。
KPI&Non-GAAP財務指標&トレンド
KPI
- 認証済みユーザー数:4,300 万(前年比 +34 %)
- 月間取引ユーザー数(MTU):280 万人(前年比 +180 %)
- プラットフォーム上の資産:903 億ドル(前年比 +432 %)
- 取引高:1,931 億ドル(前年比 +142 %)
認証済みユーザー数
認証済みユーザー数は、コインベースのプラットフォームに興味を示したユーザー数を反映しています。2020年12月31日時点で4,300万人(前年比 +34 %)となっています。

月間取引ユーザー数(MTU)
MTUは能動的または受動的に取引を行う個人ユーザー数を表し、コインベースのプラットフォームにおける収益機会を反映します。2020年12月31日時点で280万人(前年比 +180 %)となっています。MTUは経験的にビットコインの価格や暗号資産のボラティリティと相関性があります。

プラットフォーム上の資産(Assets on Platform)
プラットフォーム上の資産はコインベース・プラットフォームが抱えている総価値の規模を表す指標です。プラットフォーム上の資産は、プラットフォームの信頼性と収益化の機会を反映していると考えられます。プラットフォーム上の資産は、顧客が製品を利用したときにサブスク&サービス収入として計上される料金を生み出します。プラットフォーム上の資産の価値は、プラットフォーム上で顧客が保有する仮想通貨の価格、数量、種類という3つの要素によって決まります。
プラットフォーム上の資産は、2020年12月31日時点で903億ドル(前年比 +432 %)となっています。

2020年12月31日時点で、コインベース・プラットフォームで管理されている暗号資産の総額は、全暗号資産の時価総額の11.1%を占めています。

取引高(Trading Volume)
取引高は取引収入と直接相関しており、ビットコイン価格と暗号資産のボラティリティーの両方に影響されます。ビットコインの価格や仮想通貨のボラティリティに変化を与える因子は様々あります。最近では、機関投資家がインフレに対するヘッジとしてビットコインに投資する動きが加速しました。さらに、peer-to-peerの借入や貸出などの分散型金融(DeFi)に参加するために暗号資産を使用するケースも増えており、2019年12月31日から2020年12月31日にかけて、分散型金融に割り当てられた総額は世界全体で10億ドル未満から150億ドル以上に拡大しました。
取引高は、2020年12月31日時点で1,931億ドル(前年比 +142 %)となっています。

Non-GAAP財務指標
- Non-GAAP 純利益:3.2 億ドル
- 調整EBITDA:5.3 億ドル(前年比 +2,096 %)
経営パフォーマンスに影響する重要因子
- 仮想通貨の価格とボラティリティ
- 仮想通貨の導入
- さらなるプロダクト&サービスの提供
- 成長投資
- プロダクト&サービスの価格競争力
- 取引費用の管理
- 戦略的買収、投資、提携
- アメリカおよび国際市場の規制
業績
2020通期(~2020/12/31)
- 売上高:12.8 億ドル(前年比 +139 %)
- 純売上高:11.4 億ドル(前年比 +136 %)
- 取引売上高:11.0 億ドル(前年比 +137 %)
- サブスク&サービス売上高:0.4 億ドル(前年比 +126 %)
- その他売上高:1.4 億ドル(前年比 +168 %)
- 純売上高:11.4 億ドル(前年比 +136 %)
- 営業利益:4.1 億ドル
- 営業マージン:32 %
- 純利益:1.3 億ドル
- EPS:1.40 ドル
四半期業績
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キャッシュフロー

プロダクト

個人ユーザー向け
Invest
Invest は、45種以上の暗号資産に対して簡単にわかりやすく投資できるサービスです。コインベースは暗号資産の売買や交換に対して手数料を請求します。
Spend
コインベースは2019年にVisa と提携し、Coinbase Card を発表しました。このカードはコインベースにある顧客の暗号資産に紐づけられたデビットカードです。イギリスや一部のヨーロッパの国のVisa 加盟店で使用できます。購入代金は現地通貨(英ポンドなど)で表示され、その金額分の暗号資産が顧客のウォレットから売却されることで購入資金が調達されます。コインベースは購入ごとの取引高に応じて取引手数料を得ています。
Send & Receive
コインベースの peer-to-peer プロダクトとサービスを通じて、個人ユーザー間でEメールや電話番号、ウォレットアドレスを使い、仮想通貨を送金するサービスです。基本的にはコインベースの個人ユーザーは無料で利用できますが、一部の送金には少額の手数料がかかります。
Save
コインベースは、個人ユーザーに対して暗号資産へ投資し、利回り(報酬)を得る機会を提供することを優先事項にしています。この報酬プログラムには、対象となるユーザーが自動的に登録されます。Save では米ドルの価値をトラッキングする暗号資産である2つのステーブルコイン(USDC、Dai)に対応しています。
◆USDC
個人ユーザーがコインベースのプラットフォーム上でUSDCを保有することで報酬を得られます。USDCはCircleが発行しており、米ドルに対して1:1の価値が保証されています。コインベースはUSDCの裏付けとなる米ドルに対する利息を得て、その利息の一部を報酬という形でユーザーに提供します。コインベースが個人ユーザーに支払った報酬は、連結損益計算書の取引費用に計上されます。
◆Dai
個人ユーザーがコインベースのアカウントでDai を保有することで報酬を得られます。Dai は、米ドルと1:1の価値を維持することを試みた分散型の暗号資産です。Dai の最初の報酬は、保有してから5営業日以内に支払われ、その後毎日支払われるのが特徴です。コインベースはユーザーに支払われる報酬に対して手数料を得ており、これは連結損益計算書のサブスク&サービス収入に計上されます。
Stake
Tezosのような特定のブロックチェーンプロトコールは、ブロックチェーン取引を検証するための代替手段であるステーキングに依存しています。ネットワーク参加者は、ネットワーク上の自分の暗号資産の一定量をステーク(保証金のようなもの)として指定することで、取引を検証し、ネットワークから現物で報酬を得ることができます。現在、ほとんどのユーザーにとって、暗号資産をステークすることは技術的な課題となっています。コインベースは、「Delegated Proof of Stake」というサービスを提供しています。これにより、ステーキングの複雑さが軽減され、個人ユーザーは、ステーキング報酬を得ながら、自分の暗号資産の完全な所有権を維持することができます。その代わり、コインベースは受け取ったすべてのステーキング報酬に対して手数料を得ています。
Borrow & Lend
アメリカの個人ユーザーが自分の暗号資産ポートフォリオを担保に貸し借りができるサービスです。コインベースの最初の商品は、ポートフォリオ担保型ローンです。これは12カ月のローンで、個人ユーザーは自分の暗号資産を担保に米ドルを借りることができます。将来的には、個人ユーザーが長期投資によるパッシブリターンを得るために、暗号資産の貸し出しを選択できるようにすることを計画しています。
機関投資家向け
Invest
機関投資家の顧客は、データを重視し、仮想通貨市場について十分な情報を得たいと考えており、自分の条件で投資を行いたいと考えています。コインベースは仲買および高度な仮想通貨取引プロダクトの提供により、機関投資家の目標達成をサポートしています。また、コインベースは、多数の仮想通貨の売買注文を集約してマッチングする仮想通貨プラットフォームを運営しています。コインベースは出来高ベースの価格を提供し、取引が成立するたびに取引手数料を請求します。
Send & Receive
個人ユーザー向けのサービスと同様のサービスを提供しています。
Store
機関投資家の最大の関心事は、暗号資産を安全に保管することです。コインベースはクラス最高のセキュリティプログラムを開発するために多大な投資を行っています。コインベースのソリューションは、コインベースの投資プラットフォームと垂直統合されており、機関投資家に流動性と取引サービスへのアクセスを提供し、暗号資産に投資するための真の総合金融機関となっています。コインベースはプラットフォームに保管されている総資産に基づいて手数料を請求します。
Stake
個人ユーザー向けのサービスと同様のサービスを提供しています。
Borrow & Lend
コインベースは機関投資家がヘッジ、投機、運転資金需要のために流動性へのアクセスを提供するため、クレジットベースの商品およびサービスの提供を開始しました。
◆Post-trade credit
暗号資産市場は24時間365日活動しており、取引は瞬時に決済されます。お客様が市場に参加するためには、通常、口座に事前に資金を投入し、プラットフォーム上に不換通貨または暗号資産を維持する必要があります。コインベースは post-trade credit を導入し、顧客に代わって資金を調達して決済することで、顧客が即座に信用取引を行い、数日以内に決済できるようにすることで、主要な摩擦要因を取り除きました。
エコシステムパートナー向け
Distribute
4,300万人以上の認証済みユーザーを擁するコインベースのプラットフォームには、多くの暗号資産愛好家が集まっています。資産発行体は、新しい暗号資産やアプリケーションについて学ぶための教育用ビデオを個人ユーザーに配信する、学んで稼ぐ技術を通じてお客様と交流しています。個人ユーザーは、ビデオの視聴やアプリのダウンロードなどのタスクを完了する代わりに、学んだ暗号資産の一部を獲得することができます。コインベースは、ユーザーに配布された暗号資産の価値に応じて手数料を得ています。
Build
コインベースは個人ユーザーや機関投資家向けの製品やサービスの開発に全力で取り組んでいますが、一方で、現在および将来のクリプトエコノミーの構築者を支援するためのインフラ技術やサービスも提供しています。
◆Coinbase Analytics
コインベースの規制要件を満たし、顧客の資金を保護するために、公開されているブロックチェーンデータのみに依存したブロックチェーン分析ツールです。コインベースはこのツールを法執行機関や金融機関にライセンス供与し、ブロックチェーン取引を監視しています。原則として、顧客の個人情報を第三者と共有することはありません。
◆Rosetta
開発者が異なるブロックチェーン間で動作するアプリケーションを容易に構築するためのツールです。Rosettaは、クリプトエコノミーの開発者にとって利用範囲が広いツールです。
◆USDC
コインベースは、サークルが共同で設立したCentre Consortiumのメンバーであり、米ドルを表し、米ドルに1対1で裏付けられた暗号資産であるUSDCをサポートしています。USDCはサークルが発行しています。コインベースは、決済APIなど、開発者がUSDCを使って構築できるような技術を開発することで、コインベースの内部プロダクトやエコシステムパートナーをサポートしています。
Pay
ビジネスとクリプトエコノミーを繋げるための技術を構築しています。Coinbase Commerceは、世界中の業者が仮想通貨による支払いを受け入れ可能にするためのプラットフォームです。コインベースのWalletLink APIは、DeFiアプリ(DApp)の開発者がモバイル・ウォレットに接続し、簡単に支払いを受けられるようにします。